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030【日課】1996年2月25日
    
私達が蔵王温泉の“ホテルJ”に到着したのは午後11時近くだった。

ゲレンデを15歩ほど歩き、少し照明を落としているロビーに入った。
フロントで声を掛けると、フロント係の男の子が出てきて応対をしてくれた。

彼の話によると、“オカミ”はご主人(副支配人)が出張から戻ってくるので、車で迎えに行っているとのことだった。

チェックインをしていると、オカミのお母さんが事務所から出てきてくれたので、ご挨拶した。
その後、フロントの男の子が部屋に案内してくれた。

私がスキーシーズンに蔵王を訪れる時は、殆どいつも無理矢理予約を入れていただくことが多いので、『泊めていただけるだけで結構です』ということで、部屋はお任せしてある。

今晩は普通の和室に泊まれるとのことだった。

部屋に入ってみると、布団が敷かれ、宅急便で送った皆の荷物は既に運び込まれていた。
座卓の上にはオニギリとお新香が置かれていて、障子の外の出窓付近にはフルーツまで用意されていた。

こんなに夜遅くチェックインする我侭な私達のために、ここまでしていただけるとは本当に有り難い。

お茶を飲んで一息付いていると、ドアをノックする音がした。
出てみるとオカミだった。
少し立ち話をし、「明日時間が有ったら飲もう」と約束して、彼女は戻っていった。

結局、その晩からオカミのお嬢さんが熱を出してしまい、期間中オカミと飲むことは出来なかった。
以前、オカミがまだ結婚していない頃などは、みんなで良く遅くまで飲んだものである。

これは昔飲んでいる時に、オカミから聞いた話である。

“ホテルJ”の目の前は初心者ゲレンデになっていて、オカミが小さい頃は、今よりもずっと雪が多く、ホテルの玄関前を通っているリフトに乗っている人の板が、本当に頭上近くに感じられたらしい。

スキーシーズンの下校時はゲレンデを歩いて登るのは大変なので、リフトに乗り初心者ゲレンデの上まで行き、そこでリフトを降り、徒歩で下りてくることになっていたらしい。

ところが、ある日、彼女は“ホテルJ”の玄関前でリフトを飛び降りることを覚えてしまい、それから毎日ショートカットするようになったらしい。

ところが、リフト係のオジサンは毎日毎日オカミに向かって、「今日は飛び降りるんじゃねーぞ!」と諭し続けたそうである。

しかし、そんな言葉を聞くようなオカミではない、その場は思いっきり愛想良く、「うんっ!」と返事はするが、オジサンの教え通り、必ずショートカットを決めていたらしい。

その度に、リフト乗り場の方から、「Jの娘ーっ!」という怒鳴り声が聞こえてきたらしい。
これが彼女の日課だった。


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