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031【復活】1996年2月25日
    
土曜日の朝、8時過ぎに眠い目を擦りながら起き出した私達は、バイキングで腹を満たしダラダラと支度を行い、“ホテルJ”の玄関を出たのは10時を回っていた。

ここ2,3年、怠惰な私は蔵王に来る時は自分の板を持って来ないで、その度にホテルの板を借りていた。
昨年末に来た時も、そうだった。

しかし、今回は自分のATOMICを持参した。
約10年前のモデルである。
蔵王へ宅急便で送る前に、エッジの錆などを落として多少整備をしておいた。

ホテルの玄関前で久しぶりに自分の板にブーツを乗せた。
いつものように、まず右足からビンディングの先端にブーツを合わせ、踵を踏み込んだ。

「カチッ」と心地良い響きがして、うまく装着された。

次に左足である。
ビンディングの先端にブーツを合わせ、踵を踏み込んだ。
「カコッ」と音がして、手応え(足応え?)が無い。

見てみると、ビンディングの後ろ部分がカポカポしている。
もう一度踵を踏み込んでみたが、ダメだった。

左足を板から降ろし、右のブーツもビンディングから外した。
両方の板を並べて見比べてみたが、『多分、ネジか何かが外れたんだろう』と思った。

皆に、「ちょっと待ってて。」と告げ、私はホテルの風除室から乾燥室に入り、レンタルスキー・コーナーへと向かった。

丁度、係のオジサンがいたので、「すみません、ビンディングのネジか何かが取れちゃったみたいなんですけど、見ていただけますか?」と、お願いした。

オジサンは私の板を手に取り、瞬間見ただけで、「こりゃダメだわ。壊れてる。」と簡単に言ってくれた。

私は『ろくに見てないのに、ホントに分かってんの?』と思いながら、口では「ネジとかじゃないんですか?」と言いつつ、もう一度ビンディングに顔を近付け良く見た。

ビンディングの後方から覗き込むと、合成樹脂の部分が割れているのが見えた。
素直な私は、直ぐにオジサンの言う通り『こりゃダメだわ』と考えを改め、傷心のうちにレンタルスキーの手続きを始めていた。

数年前私が借りた板に“MILD SEVEN”と大書きされたお茶目なものが有ったが、今回は割合まともな板だった。

昨年末に来た時に借りた板は、ビンディングの調整が弱かった為か、ターン中に板が外れたり、アイスバーンでエッジを効かせると「ガコッ」と言って板が勝手に外れ、そのまま為す術も無く滑落する等という事が有り、途中でビンディングの強度を調整した。

その旨をオジサンに告げると、「レンタルは初心者が多いから、ビンディング弱めにしてるんだよねー」と言いながら調整してくれ、オマケに滑走面にワックスまで掛けてくれた。

私は、手負いのATOMICを乾燥室に残し、借りた板を手にしてホテルを出た。
皆に「お待たせ〜」と詫びを入れ、板を履いた。

蔵王のゲレンデマップが頭に入っている私は、「取りあえず、ゴンドラに乗って上に行こう!」と提案し、ゴンドラ駅までの短い距離を滑り降りた。
元々たいしたレベルではないので、板の違いなど分からないが、なかなか滑り易そうな板だった。


私達がスタートしたのは、蔵王の広いエリアの左端の方にある“上ノ台ゲレンデ”と呼ばれる所である。

その日は、色々なゲレンデを滑りながら樹氷がある“樹氷原コース”まで行き、更に右端に当たる“黒姫ゲレンデ”まで足(板?)を伸ばした。

“黒姫ゲレンデ”は長めのクワッドが2本動いていて、滑り出しの斜面がある程度の斜度を持っているため面白い。

蔵王に来始めて間も無い頃、私はリフトの乗り継ぎ時間に間に合わなくなり、“上ノ台ゲレンデ”まで戻れなくなって、夕方の大渋滞の中、オカミにロープウェイの“温泉駅”まで車で迎えに来て貰ったことも有った。

この様な愚かな過ちを繰り返さないため、と言うのは建て前で、実は体力的に衰えているため、早めに“上ノ台ゲレンデ”に向けて移動を開始した。

夕方、ホテルに戻った私は、フロントにいたオカミのご主人“明さん”に、早速「今回、自分の板持って来たんだけど、ビンディング壊れちゃって、もうダメみたいなんだ。そろそろ買い換えようと思ってたんで、申し訳ないけど、ここで処分してくれないかなぁ?」と、切り出した。

一緒に乾燥室まで来てもらい、状況を見てもらった。

彼は見るなり、「これ、金具換えれば十分滑れますよっ!」と言った。
『ビンディングだけでも数万円するだろうから、それなら板ごと新しい物に換えた方がいいな』と考えていた私は、「でも、やっぱ買い換えるわ」と伝えた。

すると彼は「じゃあ、ウチで金具付け替えてレンタルにしてもいいっすか?」と言い、話は私が予想もしていなかった展開をみせた。

素晴らしい提案である。
お世話になりっぱなしの“ホテルJ”に、私としては少しでもお役に立てれば幸いである。
こうして私の愛用していたATOMICが、第二の人生(板生?)をスタートしたのである。

蔵王で“赤のレンタルATOMIC”を見掛けたら、可愛がってあげて下さい!


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