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【010 ヤクタ】1995年5月22日

先日、数カ月振りで前の会社からの友人 HI君と飯を食った。

六本木で待ち合わせをし、彼が会社の同僚の女性と共に登場した。
三人で鉄板焼の店に入り、まずはビールで乾杯した。

その店は、カウンター形式で目の前の鉄板で調理をしてくれるスタイルの店である。
料理は別々のものをオーダーし、皆で突っつくことにした。

彼女もなかなかイケル口で、ほろ酔い気分になってきた頃、私が面白いことを発見した。

鉄板の向こう側(すなわち調理する側)に、それぞれのグループの伝票がプラスティック製のクリップボードに挟まれて並んでいる。
その内の一つが鉄板の熱で柔らかくなり反ってしまい、頭部が鉄板に殆ど接触しているのである。

それをネタにその後、私達は議論を戦わした。

『店員は、この事態に気付いていないのか?』
『或いは、客の反応を楽しんでいるのか?』
『客の良心を試しているのか?』
『元々、あの様な形状なのか?』
『もし私達の伝票なら、燃えてしまえばいい!』等。

結論は出ず、経過を見守ることにした。

その頃から、彼女が徐々に告白らしきものを始めた。
完全には理解できなかったが、分かったのは「私は役立たずな女なの!」ということだった。

彼女がしきりにそれを繰り返すので、私は全く気がすすまなかったが、親しみを込めて彼女を、“ヤクタッ!”と呼んで差し上げることにした。

その後、「それでは“ヤクタ”とは、どのような文字を書くのか?」という議論に発展してしまった。

私は、“役太”という文字が閃いた。
彼女もその案に同意したが、良く考えると、これでは“お役に立って”しまいそうである。

そこで、次に思いついたのが、“厄多”である。
“役立たず”を通り越して、近くに居たら、とっても迷惑そうな名前だが、意外にも彼女は喜んでくれた。

私は本当に気がすすまなかったのだが、“ヤクタッ!”の前に“この”を挿入し、“このヤクタッ!”と呼んで差し上げると、彼女は目を輝かせながら喜んでくれた。

良いことをした後は、とても気分がいい。
初対面の人には、やはり節度と優しさを持って接する事が肝要である。


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